小塩(をしほ)の山

 昔、二条の后が、まだ東宮の御息所(皇太子の御母)と申し上げた時

氏神(春日大社から勧請した大原野神社)にご参詣になったが、

近衛府にお仕えしていた翁が、人々が褒美をいただく折に、

(御息所の)御車より(褒美を)いただいて、詠んで差し上げた(歌)

  大原や小塩の山も今日こそは 神代のことも思ひいづらめ

  (大原や 小塩山も今日のご参詣にあたっては 神代のことも思い出していることでしょう)

と言って、心にも愛しいと思ったのだろうか、どう思ったのだろうか、知らないことだ。

 

 


小塩山というかわいい名前なので、かわいい山かと思っていたら、とんでもなかった。

平成13年11月25日に「京都西山の自然と文化を守る会」のフォーラムに参加して、

マイクロバスで小塩山に登った。

640メートルで標高はたいしたことはないが、桂駅から車で少し登って、広い平原へ出たと思ったら、

その西にすっくと壁のようにそびえ立っているのが小塩山だった。

山頂には古代の祭祀跡があるという。

産業廃棄物の不法廃棄を防ぐため、地元の人々がゲートを作っていて、普通は入山できない。

マイクロバスで登っていくと道が狭く、山にへばりつくようなヘアピンカーブだったので、

すっかり参ってしまった。山頂はあまり眺望がきかない。

中腹から見た大原野はとてものどかで、遠くにモダンな町並みが見えるのに、

昔見た田舎の田園風景そのものだった。

 

下山してわかったのは、大原野は社寺の間の参道の周りが非常に手入れのいい竹林になっていて

竹の子料理が名物で、社寺の写真集も桜が満開のものばかりで、

春に来たほうがよい所ということだった。

 

そんなのどかなところに、京都第2外環状高速道路が通ると言う。

地元では地面を掘って高架は避けたい構えのようだが、

一度道路が通ってしまえば、のどかなのは最初だけで、

高速道路の横には高速の補修や高速入り口につながる道路がどんどん整備され、

元の竹林はつぎはぎになり、いつかなくなってしまうだろう。

田園風景は一度破壊されれば、もう元には戻らない。

それは母の故郷や奈良の幹線道路沿いを見てよく知っている。

最初は田圃の中にただ真新しい道路か高速道路が一本だけ伸びる。が

次第にそれに繋がる新しい道路が縦横に伸びて、その沿線に

環境に似合わない、ドライブインや車で乗り入れるディスカウントショップができ、

そのうち、ありとあらゆる店が景観と関係なく道路沿いから林立していく。

というのは、道路ができてしまうと、空き缶や吸殻やゴミが田圃に投げ捨てられたり、

空気が悪くなって、あたりが排ガスで真っ黒になったりするので、

どんどん農業をするところが減ってくる。

そうなると土地を売るか自分で商売するかしか仕方がないのだろう。

車に乗る人には、京都の外環状高速道路が必要なことは、京都を北に抜けるとき

京都市内に入り渋滞にはまるはめになるので、自明のことらしいが、

その土地の人にとっては、きっと得るものより失うもののほうが多いのでは?

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