住吉物語

 姫君は継母の策略から逃れるため、都を離れ住吉に隠れ住んだ。少将は中将に昇進したが、いとしい姫君の行方をずっと捜している。見つからないので中将は初瀬にこもって、姫君が見つかるように祈願した。

春秋が過ぎて旧暦九月位に初瀬にこもって七日目という日、

一晩中、念仏して明け方に少しウトウトした夢に、

身分の高そうな女が顔をそむけて座っていた。

側に寄ってみると自分の思う人である。うれしさはどうしようもなくて

(中将)「どこにいらっしゃるのですか。このようなひどい目に会わせなさって、どれほど私が思い嘆いているか知っていらっしゃるのか」と言うと

(姫君)泣いて「これほどまでとは思っていなかったのに。とても気の毒です」と言って

もう帰ります」と言うので、

袖をとらえて「いらっしゃる所をお知らせになって下さい」とおっしゃると 

  海の底ともどことも知らないで住みわびていると、漁士たちは住み良い(住吉)というのです

と言って立って行こうとするのを(中将は)引き止めて、帰さないと思って、はっと目がさめて

夢とわかっていたら(目を覚まさなかったのに)と悲しかった。

さて仏のご利益だ」と言って夜のうちに長谷寺を出て住吉という所を尋ねてみよう」といって

御供にいる者(達)に「精進のついでに四天王寺住吉などに参ろうと思うのである。それぞれ帰って、この次第を父関白に申し上げなさい」とおっしゃたので

「どうして御供の人なしでございましょうか。いえ、なくてはいけません。捨て申し上げて参上したようでは良いことがございますでしょうか。いや、きっとございません」と皆、付いて行きたがったけれども、

(中将)「霊験を示されたのでその通りにするのだ。格別に思うことがある。言う通りにすべきだ。何と言っても連れて行かないつもりだ」と言って随身一人だけを連れて、白い衣で柔らかくなったのに,薄い色の衣に白い下着を着て、藁沓にきゃはん(すね当て)で竜田山を越えて行き、隠れてしまいなさったので、

申し上げかねてお供の者は帰ってしまった。

住吉ではその明け方、娘君御前近くに寝ている侍従に聞こえるように

「うたたねしていた夢に少将(中将のこと。姫君が姿を隠した間に昇進)がおっしゃる事には、心細かった山の中にたった一人旅寝して起き臥しなさる所にいったところ、を見つけてをつかまえて、『(行方を)尋ねかねて、深い山道に迷ったことだ。あなたの住む所をそこと知らせて下さい』となあ、あった」としみじみと語りなさると、

侍従は「本当にどれほどお嘆きになっているでしょう。正夢でございます。かわいそうだとお思いでないでしょうか。いえ、きっとお思いでしょう」と申しあげたので「石木でないのでどれほどでしょうか」などいいながら、感慨深げにお思いになっている。

中将は、なれない事なので藁沓にあたって、足からが出ている。行きかねている様子なので、道行く人や身分の低い者達が目をつけて皆が(中将を)見た。

それでも泣く泣く、午後六時頃に

はるばると並んで立つ松の一かたまりにあばら屋が所々にあって、

海が見えている所に行き着きなさったけれども、

どこともわからず思い悩んで松の下お休みになっていたが、

十歳余りの童松の落葉拾っていたのをお呼びなさって

「お前はどこに住む。この辺りをどこという」と尋ねる

「住吉となあ申します。ちょうどここでございます」というので

「とてもうれしいことだ」と聞いて「この辺りに立派な人が住んでいるか」とおっしゃる

「神主の大夫殿(津守氏)が」というので「ところで京などの人が住む所があるか」とおっしゃると

「住の江殿と申す所が。京の尼君といっていらっしゃる」と言ったので、細かく尋ねて行きなさると、

入江の上に作りかけた家が、心細い夕月夜が木の間からほのかに入って、

しっかりした人も見えず、とてもしみじみとしている。


長月の午後6時ごろというと、夕陽は落ちかけて夕映えの残っているころ。

波の音、風の音、次第に暗くなってゆく松林、無彩色になっていく海。

夕陽の残照の中、松の落ち葉を拾う童子。

足を痛め松の下に休む白装束の中将。

映画にしたらきっときれいだろう。

←戻る