雨の音

雨がひどく一日中降って、翌朝もまだひどく降っていたので、ある人のところへ贈った

  ふりくらし ふりくらしつる雨の音を つれなき人の心ともがな

  (一日中雨で降り暮らし 降り暮らした雨の音を 相手にしてくれないあなたの心と思いたい)

返し

  ややもせば風にしたがふ雨の音を たえぬ心にかけずもあらなん

  (どうかすると風に従って変わる雨の音を 私の絶えない心に掛けないでいてほしいものです

    〔風によって変わってしまうような雨の音に私の変わらない心を喩えないでほしいですね〕)


この段は、定家本にはない段だが、異本系にはある。

定家本にない理由は、もとの本文にあたれば、すぐにわかる。

伊勢物語は物語であるゆえに、普通は、地の文に直接経験の「き」はなくて、

間接経験の「けり」が使われる。ところが、この段には

「あるひとのがりやり」と直接経験の助動詞、過去の「き」の連体形が使われている。

おまけに冒頭の決まり文句の「昔男ありけり」がない。

ほかの話が混入したように見える。

 

しかし、内容は伊勢物語によくある男女の贈答で、しかも雨の日の気持ちがよく出ている。

 

雨が降り続くとき、ざぁー・・・という、雨の音は、耳をすませると、さらに身近に迫って聞こえて、

自然と共に暮らしていた昔の人々の気持ちには、とても近しいものだったのだろうと思う。

今だって、生徒たちは雨になると、ちょっと憂鬱で、学校を休みたがる。

ざぁ・・・・・・という音に周りを取り囲まれる、少し催眠術にかかったような時間。

雨の音があなただったらいいのに。

でも、雨は風で音がすぐに変わって、

たなびくような音、地面をたたきつけるような音、いつも同じではないでしょう?

私の気持ちを、そんな変わりやすいものにたとえないでね。

 

 伊勢物語  2003年2月11日作成